注意すると関係が悪くなる?上司の伝え方、落とし穴とは?
「良かれと思って」が裏目に出る瞬間
「ちょっと言っただけなのに、あの部下、急によそよそしくなった……」 「改善のためを思って伝えたのに、なぜか距離を置かれてしまう」
マネジメントの現場で、こうした戸惑いを抱える上司は決して少なくありません。多くの管理職が、自分の伝え方そのものに問題があるとは思わず、「最近の若手は打たれ弱い」「相性が悪かったのかもしれない」と、原因を相手や状況のせいにしてしまいがちです。
しかし、現場で繰り返し起きているこのすれ違いには、はっきりとした共通点があります。それは、注意や改善提案の中身ではなく、「伝え方の構造」そのものに落とし穴があるという事実です。言葉を変えればわかり合える、という単純な話ではなく、どのレベル(後述)に向けて言葉を投げているのか、また、どんな”土台”の上で言葉を渡しているのか。~そこに気まずさの正体が隠れています。~
これからご紹介する考え方やコミュニケーションの仕方を皆さまも目にしたことがあるかもしれません。実践されておられるかもしれません。それらの様々な方法論の大前提になっている土台が、お互いの信頼 “ラポール”というものです。その土台が無いとテクニックは効果を発揮しません。この前提を頭において、これからの文章を読み進めて下さい。
行動を指摘するのか、人格を裁いてしまうのか
NLPコーチングの第一人者であるロバート・ディルツは、コミュニケーションには「レベル」があると指摘しました。
「行動レベルの問題を、アイデンティティ(存在)レベルで指摘してはならない。”あなたはダメな人だ”ではなく、”この場面でのこの行動が、目的と合っていない”と伝えるべきだ」 ― Robert Dilts
たとえば資料の提出が遅れた部下に対し、「君は本当にだらしないな」と言えば、それは“人格”への評価になります。部下が急によそよそしくなるのは、注意されたからではなく、「自分という存在そのものを否定された」と感じた瞬間なのです。一方で、「今回の資料、締め切りが提出が遅れたのは、何かありましたか?」と切り出せば、それは“行動”に焦点を当てた対話になります。それが、以下のアプローチです。
「理解してから理解される」という“ひと手間”
スティーブン・R・コヴィー博士は『7つの習慣』の第5の習慣として、こう説きました。
「まず理解に徹し、そして理解される(Seek first to understand, then to be understood)」 ― Stephen R. Covey
注意や改善提案の前に、相手の立場・背景・感情を理解するためのひと手間をかける。たったそれだけで、同じ言葉がまったく違う温度で相手に届きます。
なぜ締め切りに遅れたのか。なぜそのやり方を選んだのか。本人なりの事情や判断があったはずです。それを聞かずに「結果」だけを切り取って指摘すれば、相手は「この人は自分のことをわかろうとしていない」と感じます。逆に、まず耳を傾けたうえで「私はこう感じた」「次はこうしてほしい」と伝えれば、同じ内容でも“裁き”ではなく“育成”として届くのです。
部下との関係が気まずくなるのは、注意したからではありません。**「人格に向けた」「過去だけを引用した」あるいは下記の、「”ラポール”信頼の土台がないままにメッセージを渡した」**からなのです。
ラポールという土台なくして、助言は届かない
そして、伝え方の技術以前にもうひとつ、決定的に重要な要素があります。それが”土台”「ラポール(信頼関係)」です。私たちが最も重視する概念のひとつであり、成功の心理学者 アンソニー・ロビンズも『Unlimited Power』の中に以下のような文脈で語っています。
「人は、信頼している相手の言葉しか本当には聞かない。ラポールなき助言は、雑音である」 ― Anthony Robbins
どれほど正しいことを、どれほど丁寧な言葉で伝えても、相手との間に信頼がなければ、その言葉は届きません。むしろ「上から目線で説教された」「いきなり踏み込まれた」というネガティブな印象だけが残ってしまいます。
ラポールは、それを短期で実現するための技術を、常に意識しなくても発揮し続ける様にトレーニングすれば、身の回りの人間関係の中に作られていくの目にすることでしょう。そしてそれこそが、いざという時の“重い一言”をしっかりと受け止めてくれる関係をつくっていきます。
伝え方を変えれば、注意は信頼を深める対話になる
伝え方を変えれば、注意はむしろ信頼を深める対話へと変わります。今日のミーティングから、ぜひ「事実を述べる → 相手を理解するための問いかけ 」のフレームを試してみてください。事実を共有し、自分の感じたことを“私”を主語にして伝え、相手に問いかけ、そして共に未来を描く。この流れに乗せるだけで、同じ内容がまったく違う質感で届くようになります。そして、
信頼を土台にした対話力を
MADOKAの講座では、こうした信頼関係づくりをすべてのプログラムの最も大切な土台と位置づけて設計しています。なぜなら、いかに優れたコミュニケーション技術や営業技術であっても、相互の信頼関係が築かれていなければ、それを使う際のリスクがかえって高まってしまうからです。
有田省吾 Shogo Arita
外資系企業にて営業・マーケティング実務、その後上席マネジメントに20年以上携わり、Harvard Law School、MIT、Babson大学などで様々なマネジメントやコーチング、組織変革手法、営業強化手法の研修・ワークショップに参加、それら研修の日本導入時のコンサルタント等を経験。認知科学と心理学を加え、日本の現状や文化に合わせた使える技術、定着する研修を提供するためにMADOKAを起業。講師・カウンセラー。

